【新規事業】人事評価制度

アイビーデザイナーズ代表 細野英之 です。

本日は「新規事業開発での人事評価制度」についてお話します。

中堅および大企業において人事評価制度の中に目標管理制度(MBO)を導入しているところが大半だと思います。目標管理制度とは、半年あるいは1年という期間で達成すべき目標を個人ごとに決め、その目標を満たしている度合い(例:計画を大幅に上回る、計画を上回る、計画通り、計画を下回る、計画を大幅に下まわる)によって段階的な評価をするというものです。この評価は賞与額に反映されます。

目標管理制度のメリットは

・目標を上司と自身が合意の上設定するため各人のコミットが強まること
・具体的な目標を設定するため何をやるかが明確となること
・目標を達成できなかったときの原因を振り返ることができ、その後の改善を図れること
・評価が透明化されるため納得感が一定以上得られること(実務では課題あり)
・上司と部下のコミュニケーションツールとしての役割を果たせること
などがあります。

一方デメリットは

・目標設定を「手堅く実現可能なもの」にする傾向があり、ほぼ計画通りかそれ以上となってしまうこと
 換言すると、チャレンジングな目標設定をすることはリスクであるため年度初めからチャレンジしないことを暗に明言してしまうこと
・新規事業開発のような不確実性の高い業務に対しては具体的な目標設定が困難であり、評価が難しいこと
などが挙げられます。

目標管理制度を経営側の視点で申し上げると「年度初めにやると約束したことはしっかりやってください」です。換言すれば、約束したことだけやれば文句は言われない、のです。先が読める、やることが比較的明確になっている既存事業、既存業務においては適した制度だと思います。チャレンジは改善レベルが中心です。

ここで問いを投げかけます。
「イノベーションは目標管理制度で起こすことができるのか」

皆様、如何でしょう。私は感覚的には難しいと思います。理由も感覚的で恐縮ですが、イノベーションは「思いもよらない非連続の新社会常識を創造すること」ですので、目標管理制度のように出来ることを積み重ねていく連続的な改善活動とは道がずれているように思うのです。

勿論、日本が得意な改善活動を長年実施してきた結果、かなり遠くまで来て振り返ればイノベーションのようなことになっていたという事実があることも知っています。しかしこれは日本の高度経済成長期の話で現在においてこのパターンはあるとしても稀だと思います。

これからイノベーションを起こしたいと考えた場合、目標管理制度より優れた制度はないのでしょうか。

私自身、長年新規事業開発をやってきましたが、目標管理制度はずっと合っていないと感じていました。

具体的には、新規事業開発を実施するときは頭脳を高速フル回転させ、あらゆる可能性を試すべく万進していくのですが、目標管理制度の目標設定の会合では別人のように保守的で達成可能な目標設定をしたものです。賞与査定がこれで決まるからです。正直、新規事業開発者として目標管理制度は形式的なものに過ぎず、関心は薄かったです。

それではイノベーションの出発点である新規事業開発担当者の人事評価はどのようにするとよいのか考えてみます。

1970年代にインテル社で採用されて以来、GoogleやFacebook(現在はmeta)などに導入されている指標「OKR」に注目が集まっています。

OKR(Objectives and Key Results)とは、組織が設定する目標(Objectives)と目標達成のために必要な成果(Key Results)を組織ピラミッド上に結び付け、各チーム、各人の成果の方向性を明確にする目標管理の手法です。組織全体の目標と個人の目標を関連づけることで、個人の目標ベクトルが組織(会社)目標達成に向かうようになり、組織オペレーションを明確化・効率化することができます。

またOKRは1ヶ月もしくは四半期の頻度でチェック評価するため不確実性の高い新規事業開発においては軌道修正、改善サイクルが短くなるため適していると言えます。

OKRでは「SMART」と呼ばれる基準で目標設定します。

Specific:具体的に
Measurable:測定可能な
Achievable:達成可能な
Related:組織目標に関連した
Time-bound:期限が明確な
目標を設定します。

ここまでは目標管理制度と比べて評価サイクルを短くしたという点くらいしか相違がないように思えます。

目標設定のレベルですが、OKRは「難しいが不可能ではない」という水準の高い目標設定をすることが求められており、達成度は60%~70%程度で成功とみまします。目標管理制度の100%を求めていない点が相違点です。

OKRの目標設定が「イノベーションレベルの定性的目標」であればイノベーション実現に近づくと思います。

またOKRの評価結果は人事評価とはリンクさせない点も特徴であり、これが保守的な目標設定を誘引することを防いでいます。結果評価よりプロセス評価です。すなわち高い目標達成に向け全力で取り組んだことを評価するため各人にブレーキがかからず、新規事業開発に目標管理制度よりは適していると思われます。

以上まとめますと、OKRは目標管理制度よりは新規事業開発の人事評価に適している制度だと言えそうです。

最後に、コンサルタントの立場で数年間に渡り様々な企業の人事部長クラスと意見交換しましたが、会社ごとに適した人事制度は異なる、という結論に至りました。すなわち、他社の人事制度を参考にしつつも自社にとって最適となるように再設計する必要があるのです。

時代が変化し、人々の価値観も変化していくため、人事制度も変化していく必要があり永遠のテーマなのです。

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