【トレンド】デジタルトランスフォーメーション(DX)

アイビーデザイナーズ代表 細野英之 です。

本日は、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」についてお話します。

2018年に経済産業省が公表した定義には、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とされています。

しかしデジタルトランスフォーメーションに至るにはステップがあります。

最初のステップは、デジタル化(デジタイゼーション)です。

【Step1:デジタイゼーション】

「デジタル化」は2つに分類されます。「アナログをデジタルへ変えること」「デジタル技術やデータをもとに新しい価値を創造すること」です。

前者の「アナログをデジタルへ変えること」は、従来アナログでおこなっていた業務をデジタルを用いて行うように変化させるというものでイメージしやすいと思います。例えば、紙を使ったメモや記録、請求書や契約書などを電子データ化し、紙の使用量を減らす「ペーパーレス化」がこれに相当します。

デジタル化の初期はこの紙データを電子データに変換する専門会社が幾つも誕生しました。

後者は「デジタイゼーション(Digitization)」とも呼ばれ、ITシステムを導入して業務をデジタル化し、業務フローを部分的にデジタル化することで業務効率化を図ることが主な目的になります。

別の言い方をすると、デジタル技術やデータを利用してビジネスプロセスを変革し、効率化やコスト削減、あるいは付加価値向上を実現するものです。

例えば

・経費精算や勤怠管理、顧客リストや顧客クレーム等を紙で管理していた業務において、これをすべて電子データ入力する基幹システムやクラウドサービスを利用することでペーパーレス化と業務効率化を図る事例。

・電子化した書類をクラウド上に保存しメンバーとファイルの共有や編集ができるようにします。リモートワークなど遠隔地からクラウドにアクセスできるようにして利便性を高め在宅勤務の推進によるワークライフバランスの確保、人材の定着化などにもつなげた事例。

・ExcelデータやWebデータ、pdf書類などからデータを転記入力する作業を画像認識技術を保有したRPA(Robotics Process Automation)に代替させることで入力作業の自動化を図る事例

・印鑑や承認印、検品済印など社内で使用する印鑑を電子印鑑化することで、ペーパーレスを完全なものにし、出社せずとも決済手続きができ、業務効率化を図った事例。

・会議をオンライン化することで、会議室予約不要、日程調整の容易化、移動時間ゼロ、交通費削減、資料共有化の容易化など多くのメリットを得た事例。

・チラシからダイレクトメールやウェブ広告、ポスターからデジタルサイネージへ移行することで、アナログ広告よりもターゲットに効率的にPRでき、更に消費者行動データを収集分析できるなどのメリットを得た事例。

・IoTやロボット導入。IoT(Internet of Things)はモノのインターネットと呼ばれ、様々な機器に搭載されたセンサー(カメラ含む)からデータを収集・解析できるのが特徴です。IoTを業務プロセスに導入し業務を自動化することで大幅な業務効率化を図った事例。

などが挙げられます。

以上の事例から以下のような効果があると言えます。

(生産性向上)

コスト削減や日常作業が軽減されることで人は付加価値を生むクリエイティブな業務に集中できるようになるというメリットがあります。単純作業はデジタル化(自動化)し、複雑な業務や頭を使う業務は人が実施することで生産性を向上させることができます。

(人手不足解消)

更に自動化による作業の効率化は、少子高齢化が進み労働力の中心である生産年齢人口(15歳から64歳)が大きく減少している日本において、人手不足を解消する手段として効果があります。

(業務高速化)

自動化できてしまうとコンピューターは24時間365日働いてくれますから、今まで手作業で行った場合「1週間」かかった作業が自動化によって「1日」で終えることも出来ます。

(ヒューマンエラー回避)

手作業によるアナログ作業のデメリットに人的なミス(ヒューマンエラー)が発生することがあります。これはどんなに注意深く作業していても必ず発生してしまいます。自動化することでヒューマンエラーの発生そのものを無くすことが可能となります。

(効果的なマーケティング)

PRしたいターゲットに対してのみ広告を表示し、その広告に対する反応まで計測できるため広告の投資対効果などまで計測、分析することが可能となります。

ではデジタイゼーションはどのような手順で進めれば良いのでしょうか。

業務効率化を図るためにデジタイゼーションを活用する場合について説明します。

  • 業務プロセスを可視化する

効率化を図りたい業務のプロセスを可視化し、どこでどのような時間や手間がかかっているか、誰がどのような作業をし、どこに特に気を付けているのか等を確認します。

  • デジタル化により効果が得られそうな部分を抽出する

業務プロセスの可視化ができたら、次にデジタル化できる業務とデジタル化が難しい業務に仕分けします。デジタル化ができる業務が直接的な効果が得られ、デジタル化が難しい業務は間接的にメリットが得られることもありますし、逆に間接的にデメリットとなることもあります。この検討によりデジタル化によりメリットが得られる業務を特定します。

  • デジタル化の方法を決定する

デジタル化したい業務が特定できたら、それに適したデジタル技術を調査します。当該技術を提供しているベンダーは複数存在するでしょうからベンダーへ相談、ヒアリングをして最も良さそうなデジタル技術を決定します。

  • デジタイゼーションを実行する

デジタル化の方法が決定したら、ベンダーと実際にその業務をやっているスタッフを含めたタスクフォースを立ち上げ、現場のコンセンサスを取りながらデジタイゼーションを実行に移します。

以上のデジタイゼーションだけでもアナログの場合と比較して十分な効果が期待できます。

【Step2:デジタライゼーション】

デジタイゼーションはDXを進めていく上で最初のステップでした。その次はデジタライゼーションです。

デジタライゼーションはデジタル化による業務効率化(内部)を超えて、デジタルの効果を顧客や社会にまで波及させようとする考え方です。

具体的には「デジタル技術やデータをもとに新しい価値を創造する」のがデジタライゼーションであり、従来のアナログでは存在しなかった新たなビジネスモデル、ビジネスプロセスを実現するものです。

例えば、顧客行動分析や購買分析をし、デジタル化によって新しい事業価値や新たな顧客体験を創造することを検討します。具体的にはカスタマージャーニーマップなどを作成し検討していきます。顧客満足度が高まるようにデジタル化を前提として各工程を再設計し直すことが通例です。

このとき全く新しいシステムを構築するには手間、時間、コストがかかり過ぎます。また無理にデジタル化したことで効率が悪くなるリスクもあります。既存システムが持つ良い点を活用しながら、デジタル化すべきポイントや課題を特定して顧客体験を効果的に向上させることがよいでしょう。

例えば

・アマゾンなどのECサイトやGoogleの検索などにおいて、ユーザーのクリックした内容からおススメ商品や広告を提示する事例。これにより顧客体験が向上(無駄な探索が低減、知らなかった新商品を教えてもらえる等)させています。

・レストランやホテルでの受付ロボットを使用した接客の自動化事例。

・介護用ロボットでは、リハビリするときの先生役を担うタイプ、入居者とのコミュニケーションを行うタイプ、介護士が装着して身体的負担を軽減させるタイプなどの事例。

などが挙げられます。

デジタライゼーションはどのような手順で進めれば良いのでしょうか。

ビジネスモデルを変革する「デジタライゼーション」は単なるデジタル化やデジタル事例を真似するだけでは上手くいきません。自社のビジネスモデルを顧客視点で変革することが目的であるためその事業と顧客を深く理解した上で独自の変革アイデアを生み出さなければなりません。

顧客体験向上検討のステップの一例をご紹介します。

①顧客分析により自社事業の顧客満足の視点での課題を明確化する

顧客分析の方法としては、行動分析や購買データ分析、アンケート調査やインタビューなどがあります。この分析によって「顧客体験の課題」と「事業そのものの課題」を明確にします。

②最高の顧客体験を検討する

最高の顧客体験を考える上でまずペルソナ設計をします。理由は「顧客のバックグラウンドまで考慮した上でミクロレベルの具体的な課題を抽出」する必要があるからです。その検討のツールとしてカスタマージャーニーマップを作成し、顧客にどのような体験をしてもらうのが最高かを検討していきます。

③仮説を設定し検証する

課題設定とそのデジタル化による解決策を考案し、それが新しい顧客体験を実現できるかを検証します。

具体的には、テストマーケティングや概念実証(PoC)をすることで検証していきます。

④最高の顧客体験を目的関数として改善し完成させる

PDCAを回すことで「顧客体験の課題」と「事業そのものの課題」が解決され、最高の顧客体験と自社事業の新しい価値、競争優位向上を確認できたら、正式にサービス開始(ローンチ)します。

デジタライゼーションは企業独自に推進するのではなく、既存の外部サービスを柔軟に活用していくことでデジタライゼーション推進のスピードおよび品質を上げられます。

一方で事業戦略の要となる部分は独自に取り組み秘匿とすべきです。すべてを外部リソースに委託してしまうとノウハウ流出リスク、ベンダーとの意思疎通の難しさ・対応の遅さ等のデメリットが大きくなるからです。

以上を参考にして、デジタル化(Step1)に取り組みながら、更にそれを事業革新につなげるデジタライゼーション(Step2)に進んでいって下さい。

【Step3:デジタルトランスフォーメーション】

デジタライゼーションは「ビジネスモデルを変革し、新たな価値が生まれる」と説明しました。デジタルトランスフォーメーションは事業だけでなく、「会社の仕組みや働き方そのものまでも見直すもの」です。

冒頭に述べましたが、2018年に経済産業省が公表した定義には、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とされています。

このレベルとなりますと現場の業務効率化、事業部門の顧客体験向上を更に超えて会社全体として経営層が取り組むべき課題となります。

日本においてデジタルトランスフォーメーションが注目されたきっかけは「Amazon」と「Uber」でしょう。Uberが誕生し、日本で認知されてからしばらくの間、ビックサイト等でのDX講演会で必ず先進事例として取り上げられました。

・AmazonのDX事例

Amazonは顧客志向を大切にし「地球上で最もお客様を大切にする企業となること」「地球上で最も豊富な品揃えとなること」の実現のためにDXに取り組んできました。具体的には「特許となった1クリックですぐに購入完了できる「今すぐ買う」ボタン」「カスタマーレビューやレコメンド機能」「送付先データと倉庫・配送データ連携による翌日配送の実現」など多くの工夫が挙げられます。

・UberのDX事例

米国ではタクシー利用客が抱える不満として「タクシー運転手の態度が悪い」「必要な時にタクシーがつかまらない」などがありました。Uberはそうした顧客の不満を解消するために、顧客と一般ドライバーとをマッチングさせる配車アプリを開発しました。具体的には、顧客が配車アプリを使って配車依頼をするとそれを見た近くにいる登録されている一般ドライバーが顧客の元へ向かうというものです。

日本ではこれは白タクとなり禁止されています。よって日本でUberはこのサービスを提供することは出来ていません。これを参考にして日本のタクシー会社は顧客とタクシーをマッチングさせる配車アプリを開発しサービス提供しています。

・AirbnbのDX事例

Airbnbはマッチングプラットフォームにより民泊を一般化し宿泊業界を一変させ、多くの人々が安く快適な宿を利用できるようになりました。

これら事例はプラットフォームビジネス、シェアリングエコノミーとしても紹介され注目を集めることとなりました。

上記以降、様々な事例が誕生しました。特にコロナ禍の長期化によってDXは加速しました。

・Netflixやアマゾンプライム等の動画配信サービスの誕生

従来はレンタルショップで映画や音楽のDVDをレンタルしていました。その後、顧客の自宅へ郵送するサービスも行われました。しかしクラウドコンピューティングの進展・普及拡大により動画配信サービスという新たなビジネスモデルに転換しました。いつでも好きな動画を自宅で閲覧できるようになり、移動する必要もなく、更にサブスクリプションによって費用も気にすることがなくなりました。

以上のようにDXを前提に考えると「今までは考えられなかったビジネスモデル」を発案することができます。このような全く新しいビジネスモデルをオペレーションするためには会社組織の意識改革、仕組みをも変革する必要があるのです。

変革の順序は「新たなビジネスモデルの考案 ⇒ それを実現するための会社組織の意識と仕組み改革」となります。また新たなビジネスモデルを考案するためには「会社風土の改革」が必要となります。

以上DXについて概観しました。

最後にDXの実現は日本企業によくある古いレガシーシステムからの脱却も意味します。

電子化されていないレガシーシステムは属人化やブラックボックス化が起こり、ITやテクノロジーとの連動が困難な複雑化したシステムの総称です。そのため部分的な改善ではなく、DXを推進することで業務フローやビジネスモデルそのもののあり方を根本的に見直し、先進的なシステムへアップデートすることが日本として求められています。それが日本全体の競争力向上につながるからです。

「2025年の崖」という言葉があります。経済産業省の報告によると日本企業におけるデジタルトランスフォーメーションが進まない場合、2025年以降、1年間に最大12兆円といった巨額の経済損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしています。

デジタルトランスフォーメーション推進が急務となっている現在、企業において早急に取り組むべきテーマと言えます。

デジタル化は一企業のみに留まらず、自治体データ、各企業のデータを連携させることも容易になるため、先進的な社会づくり、経済圏づくりにもつながるもので、社会全体さらに世界全体で取り組むことが重要なのです。

最後にまとめますと、「Step1デジタイゼーションは省力化、コスト削減という既存の改善」まで、「Step2デジタライゼーションは既存事業に新しい価値(新規性)やスピードなど既存の破壊(破壊的価値あるいは競争力の創造)」、「Step3デジタルトランスフォーメーションは一企業のみならずサプライチェーン、地域、社会の全体の仕組みまでも変革していく」というものです。

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