【新規事業】サービスデザイン

アイビーデザイナーズ代表 細野英之 です。

本日は、「サービスデザイン」についてお話します。

デザイン思考というものは随分前から米国等で提唱されていますが、その思考を事業あるいはサービスの全体像としてまとめたものがサービスデザインと言えると思います。

2020年3月に経済産業省が発行した「サービスデザインをはじめるために サービスイノベーションを加速するサービスデザイン入門」を読み解いていきます。

何度も聞かされていることですが、企業はこれまで「モノ」の機能や品質向上に注力しながらビジネスを展開してきました。しかし新興国より同程度で安価なモノが入るようになり、差別化ができなくなったこと、消費者は欲しいものはほとんど所有しており、モノへの関心が低下しています。

そこで現在、顧客は「モノ→体験(コト)」に関心が移っています。このより良い体験を設計および提供する方法論の一つが「サービスデザイン」です。

サービスデザインは、顧客にとって望ましい「連続的な体験」を提供するための仕組みとしてサービスを構想・設計し、実現するための方法論であり、その特徴は「人間中心」、「共創」、「包括的」といったキーワードで表すことができます。この「連続的な体験」という姿勢が重要です。

旅館で言えば「検索→ホームページ閲覧→予約画面と予約→確認メール→観光案内やパンフレット送付→送迎→入口挨拶→受付→入室→入浴→食事→各種体験→就寝→朝食→チェックアウト→送迎」という最初から最後まで顧客が体験する全体がサービスデザインの対象となるということです。

サービスデザインの目的はこのように「一貫性のある望ましい顧客体験を生み出すこと」です。サービスデザインにおけるサービスは、いわゆるサービス業のおもてなし(従業員と顧客との接し方や思いやり等)とは異なり、一連の顧客体験や価値を生み出すすべてを意味します。

そのためサービスデザインでは、顧客との直接的な接点(フロントステージ)だけではなく、顧客からは直接見ることのできない提供側のオペレーションや仕組み(バックステージ)も、顧客体験や価値を向上させる上で重要な要素と捉え、両者を総合的にデザインするのです。

サービスデザインは、顧客の潜在ニーズや課題の本質を捉えることを重視するデザイン思考(人間への共感を起点とするイノベーション創出のアプローチ)に加えて、コラボレーション(共創的/参加的/対話的なアプローチ)を重視します。

優れた顧客体験を継続的に提供するためには、顧客のみならず多様なステークホルダー(旅館で言えば、観光施設、駅員、タクシー運転手など)と対話・共創し、サービスを取り巻くエコシステムも望ましく機能させる必要があるからです。

つまり、サービスデザインとは、望ましい価値ある顧客体験をステークホルダーと共創し、さらにはその顧客体験と価値とを継続的に創出しつづける組織と仕組みを実現するための方法論であるといえます。

このように「モノ」の単品での満足ではなく、全体(旅行で言えば、検索から旅行終了まで)すべてに関わるステークホルダーと共創、参加、対話などを通じて満足のいく顧客体験を実現するというのがサービスデザインなのです。

一方で、サービスデザイン自体は、具体的なデジタル・インターフェースやシステム開発等を行うものではありません。これらをもっとも望ましい形で実装、実現するために、パートナーや顧客、ステークホルダーとコラボレーションすることがサービスデザインの役割です。

逆のこのサービスデザインを推し進めていく過程で新たなインターフェースやシステム、あるいは商品等を開発する必要が出た場合には、それを提供している企業が個別に開発していくことになります。

サービスデザインのプロセスは下記のとおりです。

①リサーチ

調査には定性調査と定量調査がありますが、サービスデザインでは「顧客のなぜ」に着目するため定性調査が中心となります。また定性調査においても探索的調査と検証的調査に分かれます。探索的調査は仮説を設けずに顧客理解を深めることを目的に行います。検証的調査は最初に仮説をたててその妥当性を確認するための調査です。

どちらの場合もリサーチャーのバイアスが入らないように注意する必要があります。自分中心(個人の想いや情熱も含めて)ではなく「顧客中心」に徹することが市場において信頼性のある調査結果を得る前提です。特に、検証的調査の場合は注意してください。どうしても自分の仮説を正当化したいというバイアスが入ってしまいます。「自分の仮説なんか当たることはめったにない」というくらいの姿勢で臨むのが丁度よいでしょう。

②分析

リサーチにより集めた調査データを様々な観点から分析、見える化することで顧客のみならずステークホルダーの理解を深め共感し、インサイトを引き出します。

見える化ツールとしては「ペルソナの作成」「現在のカスタマージャーニーマップ」「ストーリーボード」「ステークホルダーマップ」「キーインサイト」などがあります。

③アイディエーション

ニーズやインサイトに対する問題解決や新たな価値創出のためのアイデアを出します。リサーチ、分析、プロトライピング、どのフェーズにおいてもアイデアは出て来ます。これは当然です。顧客理解が徐々に深まっていくためです。

このように様々なフェーズで出てきたアイデアを統廃合しブラッシュアップを重ねることで、より優れた顧客体験へつなげていくことが本質的な目的です。

④サービスのプロトタイピング

ここからは「アジャイルによるテストマーケティング」と同じフェーズとなります。但し、テストマーケティングの対象が商品・サービスだけでなく顧客体験全体となる点が異なります。すなわち、テストする領域が広いのです。

顧客体験全体のサービスシナリオ、Webサイト画⾯の利便性など検証の⽬的に沿ったものを低コストで簡便に制作しテストを実施します。

⑤サービスの実装

テストマーケティングでPMFが確認できたら(実際はある程度、PMFが確認出来ればよい。本サービス開始した後、様々な課題が出てくるのが普通でそれをアップデートしていくことで更に完成に近いPMFとなっていくため)プロトタイプを本番環境にて実装します。またそのための⽣産体制・運⽤体制等を整備し、通常業務へと移⾏していきます。

最後にサービスデザインを実施する際の重要な視点を6つにまとめています。

1.人間中心(顧客、ステークホルダー)に考える

サービスに関わるすべての人々の体験・感情を考慮したデザインとすること。サービス主体者の供給側の論理に陥らないため。これに陥るとステークホルダーおよび顧客との共創が不十分となり顧客体験の質は低下してしまいます。

2.共働的であること

サービスデザインのプロセスおよびサービス実行には様々な背景、事情、役割を持つステークホルダーに好意的、かつ積極的に参加してもらえなければ十分な顧客体験を実現することはできません。

3.継続的にアップデートすること

実装に向けたリサーチ、分析、プロトタイピング、テストマーケティングのサービスデザインフェーズでの反復はもとより、実装後も課題が出てきたら、あるいはより良いアイデアが浮かんだらサービス全体を常にアップデートし続けることが顧客体験を追求する姿勢として大切です。

4.一連の連続的な体験がサービス全体と捉えること

一連の連続的な体験を可視化し、課題を関係者全体で共有することでサービス全体での最適を追求することが大切です。

5.リアルに検証すること

現実にあるニーズをリサーチし、実際にプロトタイプを作り、実際に顧客に体験してもらうことで検証すること。仮説を超えたリアリティこそが事業になるのです。

6.包括的な視点でサービスを考える

上記のまとめとなりますが、サービス全体、企業全体、顧客とステークホルダー全体の視点でサービスを設計する必要があり、それは無理のない持続可能なものでなければならない。

以上、「サービスデザインをはじめるために サービスイノベーションを加速するサービスデザイン入門」を要約およびコメントを入れてみました。

サービスデザインは、新規事業だけでなく、既存サービスのクオリティを上げることにも役立ちます。

新規事業を創出する現在流行っている「一つの方法論」ですので知っておく必要があります。

以下も参考にされると良いと思います。

・書籍『サービスデザインの実践』

This is Service Design Doing サービスデザインの実践 | マーク・スティックドーン, アダム・ローレンス, マーカス・ホーメス, ヤコブ・シュナイダー, 長谷川敦士, 安藤貴子, 白川部君江 |本 | 通販 (amazon.co.jp)

・「我が国におけるサービスデザインの効果的な導⼊及び実践の在り⽅に関する調査研究報告書[詳細版]」2020年3⽉ 経済産業省

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