【新規事業】オープンイノベーションの留意点⑥

アイビーデザイナーズ代表 細野英之 です。

本日は、「オープンイノベーションの留意点」についての6回目(最終回)です。

前回は出資契約に係る問題について半分まで読み解き、考察しました。本日は、「出資契約に係る問題」の残り半分について読み解いていきます。これで当該指針はすべて読み解くことになります。

出典は前回同様

「スタートアップとの事業連携及び スタートアップへの出資に関する指針(令和4年3月31日)公正取引委員会、経済産業省」と

「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」を策定しました (METI/経済産業省)

「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針ガイドブック(2022年6月:公正取引委員会、経済産業省、特許庁)」です。

su_guidebook.pdf (jftc.go.jp)

スタートアップは事業実績、売上実績がないか、あるいは乏しいため金融機関から融資してもらえないことがほとんどです。従って、投資家から出資してもらう必要があります。投資家はその事業が魅力的で経営者がそれを実行、実現できるか等を観て出資判断します。

その際、出資契約を締結するのですが、そこにおいてもいくつかの問題が指摘されています。本指針ではそのような問題が発生してしまう要因として以下の3つを挙げています。

・スタートアップ側の契約・法律に関するリテラシーの不足

スタートアップ側が出資契約を締結する際に、経営陣の知識・経験不足、アドバイザーの欠如等が原因で、契約交渉の不足、契約の理解不足による不利な条件の容認、契約不備等が発生するケースが該当。

・出資者側のオープンイノベーションに関するリテラシーの不足

出資者側が、スタートアップの成長の道筋を意識できず、意図せずスタートアップの成長阻害となるような問題のある契約等を締結するケースが該当。

・対等な立場を前提としたオープンイノベーションを推進する上で望ましくない慣習の存在

出資者側でスタートアップの資金調達ニーズが切迫したもので、契約違反が行われたとしても訴訟に耐える資本を有しない等の弱みを認識した上で、過度な権利主張を行ったり、出資者が契約・法令に違反するケースが該当。

それでは具体的に問題事例を見ていきましょう。

最初の問題事例に行きましょう。指針では以下の通り記載されています。(出典より転記)

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問題事例:スタートアップが、出資者から、知的財産権の無償譲渡等のような不利益な要請を受け、その要請に応じないときには株式の買取請求権を行使すると示唆される場合がある。(株式の買取請求権)

(事例)v社がスタートアップ

v社は、事業を順調に進めており、出資者と定めた事業計画上の目標を達成していたにもかかわらず、出資者から、知的財産権を無償で譲渡するように求められ、それに応じない場合には株式の買取請求権を行使すると示唆されたため、その知的財産権を譲渡した。

公正取引委員会の見解は以下の通りです。

<独占禁止法上の考え方>

株式の買取請求権は、出資者がその行使の可能性をスタートアップに示唆するなどして交渉を優位に進めることを可能とする点で、出資者のスタートアップに対する取引上の地位を高める可能性取引上の地位がスタートアップに優越している出資者が、正当な理由がないのに、スタートアップに対し、知的財産権の無償譲渡等のような不利益な要請を行う場合であって、スタートアップが、出資者の保有株式の全部の買取りを請求されるなどの今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合

⇒優越的地位の濫用のおそれ

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転記ここまで。

【IBDの考察】

そもそも「株式の買取請求権を行使」は特別な違反などがなければ行使できません。「企業の競争優位性に関する事項の虚偽」、「粉飾決算」、「反社会的勢力との関係が明らかとなった場合」等、重大な問題や事実が明らかになった場合に限り行使できるのが通常であり、その行使条件は出資契約書に明記されているはずです。

基本的に出資された資金はスタートアップが返済なしで自由に使用できるものです。今回、スタートアップの知的財産権を無償譲渡しなければ買取請求権を行使するということですが、出資契約書にそのようなことが可能な旨が記載されていれば別ですが、そのような記載はないと思います。

出資先のスタートアップの核となるような知的財産権がなくなってしまったら、むしろ出資する意味がなくなってしまうのではないでしょうか。そうなると結局、出資した分、損することになります。知的財産権を無償で譲渡させた後、買取請求権を行使するのでしょうか。

スタートアップは「資金と時間」に限りがあり、買取請求権を行使されると一気に資金繰りが厳しくなってしまい、大きなリスクです。しかし買取請求権が行使されることはめったにないことです。

今回、知的財産権を無償譲渡してしまったようですが、コア技術ではなかったのでしょうか。また譲渡するにしてもスタートアップ側に「独占的な通常実施権」を付与させるという条件をつけるべきです。

また知的財産権の獲得までには「研究開発費」「人件費」「設備費」「光熱水費」「税金」「出願費用」「中間対応費用」「登録費用」「維持年金」と多くのコストをかけています。これを無償で譲渡することなどあり得ないのです。事業で実際に使用する特許権でしたら1件当たり、数百万円から数千万円の価値があるはずです。

譲渡するならそのような点も踏まえて価格交渉すべきでした。

勿論、スタートアップの核となる知的財産権でしたら決して譲渡などしてはいけません。事業そのものの競争優位性を確保できなくなってしまいます。出資者は当該特許権を使用してスタートアップと同様な商品を製造販売し、競合となる可能性も十分ありますし、特許権を行使してスタートアップ側の商品製造販売を権利侵害しているとして差し止めることもできるのです。そうなってはスタートアップ側は立ち行かなくなってしまいます。

無形資産だからと軽く考えてはなりません。

次の問題事例に行きましょう。指針では以下の通り記載されています。(出典より転記)

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問題事例:スタートアップの事業資金が枯渇しつつある状況において、スタートアップが、出資者から、出資額よりも著しく高額な価額での買取請求が可能な株式の買取請求権の設定を要請される場合がある。(株式の買取請求権)

(事例)w社がスタートアップ

w社は、出資者から、w社側の軽微な契約違反の場合でも、出資者が株式の買取請求権を行使できる条件を設定された上、出資者が出資額よりも著しく高額な価額で買取請求できる条件を一方的に設定された。

(事例)x社がスタートアップ

x社は、出資者から、x社が数年後に出資額よりも著しく高額な価額で必ず株式を買い戻さなければならないという条件を受け入れさせられた。

公正取引委員会の見解は以下の通りです。

<独占禁止法上の考え方>

株式の買取請求権の設定は、その内容・方法によっては、スタートアップにとって著しい不利益となる可能性。取引上の地位がスタートアップに優越している出資者が、スタートアップに対し、一方的に、出資額よりも著しく高額な価額での買取請求が可能な株式の買取請求権の設定を要請する場合であって、ス タートアップが、今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合

⇒優越的地位の濫用のおそれ

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転記ここまで。

【IBDの考察】

この契約内容はIPOやM&Aというイグジットが出来なくても将来の決まった期日に確実にキャピタルゲインを確保できるというものです。

すなわち、スタートアップが倒産廃業しない限り、儲けられるという契約内容です。出資者は経営的な助言やIPOの支援など一切せずとも、契約上、儲けられてしまうという楽に儲ける方法です。100万円出資(貸して)、3年後に1000万円返済する、という高利の貸金業のように感じてしまいます。

一方、これを契約するということはスタートアップ側にとっては厳しい条件をコミットすることになります。その期日までに事業が拡大し、十分なキャッシュフローを確保できる見込みがあり、設定された買取価格が将来のIPO時の株価より低いと考えられれば、契約内容を受け入れてよいかもしれません。

しかし正直、新規事業において確実というものは存在しません。従って、このような条件を要求してくる出資者からの出資は断り、もっと良い出資者を探すべきだと思います。

次の問題事例に行きましょう。指針では以下の通り記載されています。(出典より転記)

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問題事例:株式の買取請求権の行使条件が満たされていなかったにもかかわらず、スタートアップが、出資者から、保有株式の一部について買取請求権を行使される場合がある。(株式の買取請求権)

(事例)y社がスタートアップ

y社は、製品をより低価格で販売できるよう、機材調達の方法を変更した。この変更は、事業計画の重大な変更に当たらず、株式の買取請求権の行使条件を満たしていなかったが、出資者から、株式の一部について一方的に買取請求権を行使された。

公正取引委員会の見解は以下の通りです。

<独占禁止法上の考え方>

株式の買取請求権の行使は、その内容・方法によっては、スタートアップにとって著しい不利益となる可能性。取引上の地位がスタートアップに優越している出資者が、正当な理由がないのに、スタートアップに対し、保有株式の一部の買取りを請求する場合であって、スタートアップが、今後の取引に与える影 響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合

⇒優越的地位の濫用のおそれ

<解決の方向性>

契約違反時の責任追及の手段として買取請求権の条項が規定される一方で、出資者は買取請求権を濫用してはならない。買取請求権の規定については、出資者とスタートアップ側が十分な協議の上、その行使条件については重大な表明保証違反や重大な契約違反に明確に限定すべきであり、また、行使を示唆しての不当な圧力を阻止するべきである。

買取請求権の行使が正当と認められる重大な表明保証違反、重大な契約違反としては、以下のような内容が例として挙げられる。

[表明保証違反]

・知的財産権など企業の競争優位性に関する事項の虚偽表明

・粉飾決算(多額の架空売上の計上、債務の隠蔽等)

・反社会的勢力との関係が明らかとなった場合

[重大な契約違反]

・投資資金の資金使途以外での使用(目的以外の事業への流用、他社への投融資、

創業株主らによる私的利用等)

・事前承認事項への違反(大量の新株発行や重要な事業の譲渡等株式の価値に重大

な影響を与える事項)

・重大な法令違反が生じた場合

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転記ここまで。

【IBDの考察】

「株式の買取請求権の行使条件が満たされていなかったにもかかわらず」、権利行使されたということは契約違反に該当します。従って、権利行使されてもおカネを支払わなければよいと思います。

出資側がおカネを支払うよう裁判を起こしても勝ち目はないでしょう。

次の問題事例に行きましょう。指針では以下の通り記載されています。(出典より転記)

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問題事例:スタートアップが、出資者から、スタートアップの経営株主等の個人に対する買取請求が可能な株式の買取請求権の設定を要請される場合がある。(株式の買取請求権)

(事例)z社がスタートアップ

z社は、出資者から、出資契約に創業者に対する株式の買取請求権を定めることを要求され、一方的に定められた。

(事例)AA社がスタートアップ

AA 社は、AA 社が出資者の同意なしに事業を進めた場合には、出資者が創業者に対して株式の買取請求権を行使できるという条件を一方的に設定された。

<競争政策上の考え方>

経営株主等の個人に対する買取請求が可能な株式の買取請求権については、スタートアップの起業後に経営株主となることが多い創業者にとって、出資者からの出資を受けて起業しようとするインセンティブを阻害することとなると考えられる。このため、スタートアップの起業意欲を向上させ、オープンイノベーションや雇用を促進していく観点からは、出資契約において株式の買取請求権を定める場合であっても、その請求対象から経営株主等の個人を除いていくことが、競争政策上望ましいと考えられる。

<解決の方向性>

近年スタートアップのグローバル展開が指向される中、海外の投資家の呼び込みなども課題となっている。このため、出資においてもグローバルスタンダードへの対応が必要となる。制度の背景が異なるにせよ、発行会社と経営株主の連帯責任を求める出資契約の条項については、グローバルな観点からはあまり例が無い状況である。融資に関しては、「経営者保証に関するガイドライン」(平成25年12月 経営者保証に関するガイドライン研究会)で、経営者の個人保証について、「法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めない」ことを示し、融資慣行として浸透・定着しているところである。また、発行会社との連帯責任を求める商慣行は、起業や企業経営へのインセンティブを阻害すると考えられる。以上の点に鑑み、契約違反時の買取請求権は発行会社のみに限定し、経営株主等の個人を除いていくことが望ましい。

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転記ここまで。

【IBDの考察】

正直これにはあまりコメントありません。指針に記載されている通りです。個人の土地の担保など古い商慣習を今でも疑わない出資者からの要求だったのでしょうか。出資した資金は返済不要が原則ですが、そのリスクは負いたくなく、個人の資産を担保にしたいという融資的な思想のことでしょうか。

次の問題事例に行きましょう。指針では以下の通り記載されています。(出典より転記)

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問題事例:スタートアップが、出資者により、新たな商品等の研究開発活動を禁止される場合がある。(研究開発活動の制限)

(事例)BB社がスタートアップ

BB 社は、BB 社の技術を活かしたAIの開発に着手しようとしたが、出資者から、そのAIが他の出資先のAIと競合し得ることを理由に、その開発を禁止され、これに従わない場合には、出資契約を打ち切ることとされたため、その開発を断念せざるを得なかった。

<独占禁止法上の考え方>

出資者が、取引の相手方であるスタートアップに対し、自ら又は他の出資先が有する技術の競争技術に関し、スタートアップが自ら又は第三者と共同して研究開発を行うことを禁止するなど、スタートアップの自由な研究開発活動を制限する行為は、一般に研究開発をめぐる競争ヘの影響を通じて将来の技術市場又は商品等市場における競争を減殺するおそれがある。したがって、このような行為は、拘束条件付取引(一般指定第12項)として問題となるおそれが強い

<解決の方向性>

多様な成長可能性を有するスタートアップにとって、研究開発活動の制限は事業拡大の障害になる可能性が高く、基本的に望ましくないと考えられる。

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転記ここまで。

【IBDの考察】

研究開発の自由、競争の自由を出資者が制限している事例です。

自社のグループ内で子会社同士が同じ研究開発をしていれば、投資効率が悪いため、いずれの子会社が研究開発を実施し、その成果はグループ内で最大限活用するということは合理的であり、頻繁になされる調整と意思決定です。

今回の事例がそのアナロジーとしての指示であれば、開発を許された出資先の会社の成果を、こちらのスタートアップも活用できるようにすることが合理的です。

どちらかを生かし、どちらかは見捨てる、という判断は出資者の権限ではありません。拘束条件付取引(一般指定第12項)として問題となるおそれが強いと思います。

また研究開発の内容は通常「秘密情報」であり、それを他社に漏洩し、開発の取り止めを指示している場合、NDA違反にもなっている可能性があります。

出資者としては、このような近視眼的な前裁きではなく、両方の出資先の事業成長を支援する総合的なプランを提示すべきです。

次の問題事例に行きましょう。指針では以下の通り記載されています。(出典より転記)

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問題事例:スタートアップが、出資者により、他の事業者との連携その他の取引を制限される場合や、他の出資者からの出資を制限される場合がある。(取引先の制限)

(事例)CC社がスタートアップ

CC社は、投資業以外の事業も行っている出資者から、出資者の競合事業者との連携の禁止にとどまらず、競合事業者ではない事業者との取引についても全て制限を課された。

(事例)DD社がスタートアップ

DD社は、将来的に出資者と共同事業を行っていくという約束で、出資者と独占契約を締結した。しかし、その後も共同事業は開始されず、かつ、出資者は独占契約の見直しの求めにも応じず、他の事業者と連携したくてもできない状況となった

(事例)EE社がスタートアップ

EE社は、出資契約において、出資者の事前の許可を得ずに他社から資金調達を行わないこと、他社と取引を行わないこと、他社と事業連携を行わないこと等の幅広い制限を課された。

(事例)FF社がスタートアップ

FF社は、既存の出資者から、新たな出資者から出資を受ける場合には、既存の出資者との取引条件をFF社にとって著しく不利なものに変更する条件を追加されたため、新たな出資者から出資を受けることが事実上できなくなった。

<独占禁止法上の考え方>

出資者が、スタートアップの商品・役務に使用された出資者のノウハウ等の秘密性を保持するために必要な場合に、取引の相手方であるスタートアップに対し、他の事業者との取引を制限することは、原則として独占禁止法上問題とならないと考えられる。

しかしながら、市場における有力な事業者である出資者が、取引の相手方であるスタートアップに対し、例えば、合理的な範囲を超えて、他の事業者との取引を禁止することは、それによって市場閉鎖効果が生じるおそれがある場合には 、排他条件付取引(一般指定第11項)又は拘束条件付取引(一般指定第12項)として問題となるおそれがある。

<解決の方向性>

取引先の制限に係る契約交渉に際して、双方が今後のスタートアップの事業拡大を考慮した利害調整をした上でのオプションとして、当該制限が合理的に機能するものであるかの共通認識を持つことが重要である。契約交渉に際しての双方のスタンスとして、互いの主張が利害調整のオプションとして合理的に機能するものであるかどうか、という観点を意識することが重要である。多様な成長可能性を有するスタートアップにとって、取引先の制限は事業拡大の障害になる可能性が高い。しかし、例えば、出資後の共同事業が予定される場合において、スタートアップに共同事業の成果物の知的財産権を単独で帰属させる一方で、出資者が競合他社との関係で競争優位性を保てるように、スタートアップに対し、出資者の競合他社との取引を制限することは一定の合理性を有する場合もあると考えられる

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転記ここまで。

【IBDの考察】

「DD社は、将来的に出資者と共同事業を行っていくという約束で、出資者と独占契約を締結した」では、例えば、「3年後に共同事業が開始され売上が計上されていなければ、独占契約を自動解除できる」という期限を決める文言を入れておくべきでした。

このような文言はライセンス契約書において頻繁に使用されるものです。

「EE社は、出資契約において、出資者の事前の許可を得ずに他社から資金調達を行わないこと、他社と取引を行わないこと、他社と事業連携を行わないこと等の幅広い制限を課された」では、全く身動き取れませんし、もはやスタートアップではありません。但し、他社というのが出資者の競合企業を示している場合、そことの関係構築を制限することは一定の範囲では合理的です。

スタートアップの魅力は自由に伸び伸びと事業拡大を進めることが出来る点です。それが大きく制限されるのでしたら、別の出資者を探す方が賢明です。事業になりません。

出資者の目的は、「スタートアップの事業成功を支援し、イグジットさせて儲ける、あるいは自社グループへ取り込むこと」です。この基本スタンスを守って頂きたいと思います。また出資者が事業会社の場合、競合他社にまでメリットを享受させることは避けたいと考えることは当然のことですが、独禁法違反とならない範囲で行う必要があります。

最後の問題事例に行きましょう。指針では以下の通り記載されています。(出典より転記)

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問題事例:スタートアップが、出資者により、最恵待遇条件(出資者の取引条件を他の出資者の取引条件と同等以上に有利にする条件)を設定される場合がある。(最恵待遇条件)

(事例)GG社がスタートアップ

GG社は、出資者から、将来、他の出資者がより有利な条件で投資契約を結んだ場合には、出資者にも同条件を適用することとする最恵待遇条件を設定され、その結果、他の出資者から、出資の申出を受けることがなくなった。

(事例)HH社がスタートアップ

HH社は、既存の出資者との契約に、既存の出資者に対する最恵待遇条件を設定された。HH社への追加出資を検討していた他の出資者は、最恵待遇条件が設定されていたため、最終的に追加出資を行わなかった。

<独占禁止法上の考え方>

出資者が、取引の相手方であるスタートアップに対し、最恵待遇条件を設定することは、直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

しかしながら、市場における有力な事業者である出資者が、取引の相手方であるスタートアップに対し、最恵待遇条件を設定することは、それによって、例えば、出資者の競争者がより有利な条件でスタートアップと取引することが困難となり 、当該競争者の取引へのインセンティブが減少し、出資者と当該競争者との競争が阻害され、市場閉鎖効果が生じるおそれがある場合には、拘束条件付取引(一般指定第12項)として問題となるおそれがある。

<解決の方向性>

最恵待遇条件の設定に係る契約交渉に際して、スタートアップと出資者双方がスタートアップの今後の資金調達方向性を見越した、利害調整をした上でのオプションとして合理的に機能するものであるかの共通認識を持つことが重要である。

契約に最恵待遇条件を入れることにより、その後の他の出資者に対して有利な条件が設定されたときには、その有利な条件がそのまま契約先の出資者に適用されることとなる。そのため、受け入れる際には慎重に契約先の出資者との将来の関係を検討した上で決定するべきである。加えて、あらかじめ交渉の場において取引条件を明確にするとともに、対価に関する十分な協議を行うことが重要である。

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転記ここまで。

【IBDの考察】

当初から出資していた出資者(最もリスクテイクしている)よりも後からの出資者の条件の方が良い場合、やはり不満が出てしまいます。従って、「出資者から、将来、他の出資者がより有利な条件で投資契約を結んだ場合には、出資者にも同条件を適用すること」としたい気持ちは十分理解できます。

わからないのは、「その結果、他の出資者から、出資の申出を受けることがなくなった」という点です。当初から出資していた出資者の条件があまりにも悪いため出資の申出がないのでしたら、最初からお世話になっている出資者の条件が悪すぎるということではないでしょうか。

スタートアップ側も出資者への公平性を説明できるようにしておくことが必要と思います。資金だけでなく、有用な経営的助言を受けられる、業務提携による支援が受けられる等、資金以外の支援がある場合は当然、そちら側の投資条件は良くなるはずです。

すなわち、投資条件を異にするのでしたらその説明責任がスタートアップ側にもあると思います。

以上、

「スタートアップとの事業連携及び スタートアップへの出資に関する指針(令和4年3月31日)公正取引委員会、経済産業省」と「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針ガイドブック(2022年6月:公正取引委員会、経済産業省、特許庁)」の中の「出資契約に係る問題」を最後まで読み解き、考察しました。

またこれにより、「スタートアップとの事業連携及び スタートアップへの出資に関する指針(令和4年3月31日)公正取引委員会、経済産業省」と「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針ガイドブック(2022年6月:公正取引委員会、経済産業省、特許庁)」を全部、読み解き、考察致しました。

尚、本指針ではスタートアップからの問題提起を起点に作成されているため、スタートアップ側が被害者のようになっています。

しかし実際には、魅力あるスタートアップは投資家からの資金調達も順調で強く、連携事業者の方が不利な契約となっていることも多いという事実があることは知っておいて頂きたいと思います。

交渉の結果、「決裂(No Deal)」でもよいのです。契約締結した方が不幸になることもあるためです。

今回の情報及び考察を貴社で有効活用され、事業成長に資することを祈念いたします。

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