【仕事力】研究とエンジニアリング

アイビーデザイナーズ代表 細野英之 です。

本日は、「研究とエンジニアリング」についてお話します。

本テーマは考え方が色々とあると思いますが、私の所見を記します。

私は両方とも経験してきました。大学の研究室3年間と企業での7年間は研究者として研究をしていました。

世界最先端の新技術(人工光合成、カーボン繊維など)を開発し、新規事業を創造するという役割で万進していました。

世界の誰もまだ解明、開発出来ていない新技術を開発するものでした。土日含め遅くまで実験しながら、数多くの論文を毎日読み、現在世界ではどこまでわかっていて、世界のどこで誰がどのような研究をしているのかを理解していました。

彼らは仲間であると同時にライバルだからです。また実現しようとしていた技術は非常に難解なものですが、実現できれば世界的に大きなインパクトを与えるものでした。

欧米の有名な国際誌(The Journal of Physical Chemistry A、Journal of the Chemical Society, Faraday Transactionsなど)へ論文掲載も多くされましたが、実用化には現在でも世界どこも出来ていません。このように研究とは「世界の誰もまだ出来ていない未知の技術を創造する活動(ゼロイチ)」です。わかりやすい例では「ガンを完全に治す薬」を作るようなものが研究に該当します。

研究で必要なものは「リサーチ能力、研究スキル、観察力、クリエイティビティ、論理的思考、常識を無視したゼロベース思考、情熱、体力」および「サイエンスと良き友人になること」です。

研究は夢大きく成功したときのインパクトは大きいですが、不確実性が高いため株主説明が必要な企業で取り組むには相当の思い入れがなければ出来ません。実際、日本企業ではバブル崩壊後、研究活動は縮小されています。ネガティブな表現をすれば「短期的視野で確度の高いものだけやる」というようになりました。

一方、エンジニアリングはある目的達成(例えば、プロジェクトの完成)のために既存技術を駆使して期限までに仕上げる活動です。エンジニアリングで重要なのは「現場経験、スキル、細部理解、応用力」です。「何とかし、何とか仕上げる力」です。

エンジニアリングで対応できない場合、一部研究が必要となりますが、改善中心あるいは目的達成特化型の研究となります。その研究が上手く行かなかった場合、他技術で何とか代用するという手段を使います。

企業では研究が減少し、現場でのエンジニアリングが中心となりました。目的が明確で、基本的に既存技術を使うため、成功確率も高く、しかも短期間で完遂します。

人事評価上もこちらの方がわかりやすく評価しやすいのです。常に安定的にヒットを打ち続けることが出来ます。

一方、いつ出るかわからない大ホームランを狙うのが研究ですので、会社内で評価され昇進していきたければリスクが大きいのです。

日本では企業のみならず、公的研究機関においても研究ができる環境が乏しくなっており、インパクトが大きく不確実性の高い研究にチャレンジしたければ、米国へ行って(移住)研究するのが良いということは研究者の世界では周知となっています。

コロナ禍でmRNAを利用したワクチン開発が米国企業を中心に成功しました。mRNAの基礎研究をしっかりやっていたし、mRNAが様々な治療に役立つという信念と壮大なビジョンがあったからです。

研究成果は「今まで出来なかったことが出来るようになる」ということです。換言しますと、研究成果を活用した新規事業は「今まで技術的に誰も出来なかったことを実現して事業を展開するもの」ですので、明らかにゼロイチであり、オンリーワンとなるのです。

一方、エンジニアリングベースの新規事業は技術的には革新性がないため「ビジネスのアイデア勝負」となります。すなわち、ビジネスモデル特許などで参入障壁を構築しておかないとすぐにレッドオーシャンとなってしまいます。

日本の家電製品などは「付加価値」という高機能化で差別化を図ろうとしてきましたが、革新的なものはなく差別化という領域に至ったものはほとんどなかったと思います。理由はすぐに出来る確度の高い比較的容易な技術のみ開発していたからでしょう。商品開発部門は1~2年以内に商品を出さなければならない役割があるため本格的な研究は基本的に出来ないからです。

その結果、機能の数だけ増え、企業の期待とは裏腹に機能過多でユーザーにとっては使いづらいものとなり、最近では逆に機能を最低限とした家電に取って代わられている商品も見受けられます。

研究とエンジニアリングはそれぞれ役割が異なります。企業ごとにそのウェイトも異なりますが、企業の永続的な発展のためにこのポートフォリオと評価制度を整備することが経営者には必要なのです。

オマケ:
査読者2名いる英文の国際誌へ投稿することは研究スキルを向上させるために大いに役立ちます。是非、研究者の業務にあたっている間に数報は掲載されるように頑張ってください。

最後にクイズです。「研究論文を投稿する場合」と「研究論文を読む場合」とでは重視するポイントが異なります。さて、研究論文の構成は下記のとおりですが、それぞれの場合で最も重要な項目はどれでしょうか。

•Title
• Authors
• Abstract
• Keywords
1. Introduction
2. Materials & methods
3. Results
4. Discussion
• Acknowledgements
• References

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