【新規事業】ファイナンス論

アイビーデザイナーズ代表 細野英之 です。

本日は、「ファイナンス論」についてお話します。

まずファイナンスとは資金や財政、金融などと訳されます。企業経営でのファイナンスは「お金の流れの管理」という意味で使用されます。

「お金の流れの管理」は売上や費用に関するものだけではなく、借入金や投資なども含まれます。

会社を経営していく上での「すべてのお金の流れの管理」がファイナンスと思っておけばよいでしょう。

このファイナンスに関する理論がファイナンス論です。投資意思決定や企業価値向上につながる理論ですので基本的なところは押さえておきましょう。

ファイナンスはアカウンティングとは異なります。アカウンティングは簿価、利益、過去という結果を管理・表現するものであるのに対し、ファイナンスは「時価、キャッシュフロー、将来」を取り扱うもので「将来の意思決定」や「将来の企業価値向上のための施策」「会社の買収や売却」ということに活用されるものです。

またファイナンス論はコーポレートファイナンス論とインベストメント論に大別されます。

コーポレートファイナンス論は企業の財務的意思決定に焦点を当てているのに対して、インベストメント論は投資家の証券投資に焦点を当てています。

コーポレートファイナンス論は主に3つの意思決定を支援します。資金調達に関する意思決定、投資(主に事業投資)に関する意思決定、利益配分に関する意思決定です。

資金調達に関する意思決定とは、企業は事業を行うために必要となる資金を、株主からの出資等で調達するのか、債権者(銀行等)からの借入を利用するのか、その両方を利用するのか、という企業における最適資本構成に関する意思決定となります。

投資意思決定とは、調達した資金をどのような事業や資産に投資していくのか、あるいは証券等の金融資産に投資するのか、を決めることです。

利益配分に関する意思決定とは、企業の最終利益をどのような割合で配当、返済、内部留保に割り当てていくかを決めることです。これをペイアウト政策とも言います。

以上の金の流れを整理すると、資金調達の意思決定で資金を調達し、その資金を事業などに投資し、最終的に得られた利益を資金調達先へ配当や返済という形式で割り当て、残りを企業に留保するというものです。それぞれの意思決定に関する理論がコーポレートファイナンス論です。

この一連の過程を適切に行うことで「企業価値」を最大化していくことがコーポレートファイナンスの目的です。

企業価値を高めるとどのようなメリットがあるでしょうか。

・配当やキャピタルゲインが期待できることから投資家から資金調達をしやすくなる

 (更なる成長への大きな資金を返済不要な資金として得られやすくなる)

・債権者からの信頼が高まり、融資を得られやすくなる

・企業価値が高いと買収金額が高くなるため、敵対的買収の脅威を低減できる

などメリットがあります。

それではどのように企業価値を高めていくのか概観してみましょう。

企業価値を高めるためには「キャッシュフローを増やす」ことが必要です。特に重要なのは「営業キャッシュフロー」であり本業の稼ぎ力のことです。

優れた企業は優れた事業とセットですので、優れた事業を行う、あるいは事業投資することで営業キャッシュフローを増やします。3つの意思決定の中の「投資意思決定」にあたります。

投資意思決定の基本は「割引現在価値」の考え方です。この考え方よりDCFやIRRを算出し、資本コスト(具体的に用いられるのはWACC)よりも不確実性を考慮しても十分高い事業に対して投資していきます。

これにより資金調達コストを事業収益が遥かに上回ることでキャッシュフローを増大させることができます。増大したキャッシュフローは配当で投資家へ分配したり、債権者へ利息と元本返済へ割り当てます。この配当金が大きいと企業株価も上昇していき、キャピタルゲインという儲けが投資家に生まれますし、経営者が保有する株の資産価値が大幅に上昇します。

キャッシュフローを増大させるためには資本コストを出来る限り小さくすることが重要です。それが資金調達に関する意思決定となります。例えば、出来る限り低金利で融資を受ける、内部留保を使って借入金を出来る限り小さくする、などがその方向性です。

また営業キャッシュフローを増やすためには優秀な社員を確保しておく必要があります。そのためには給料水準を上げるなど、投資家向けだけでなく人件費に関しても投資対効果を最大化させる方策を進める必要があります。

ファイナンスというと財務部門の仕事という意識が強いと思いますが、事業部門と密接に関係しており、経営者はこの全体の流れを定量的に、しかも要因とセットで把握していくことが意思決定者として不可欠なのです。

インベストメント論について簡単に触れておきます。金融資産への投資が主なものですが、事業投資にも関連するポートフォリオ理論についてお話します。

株式などの流動性のある金融資産へ投資する場合、その配当と株価変動、更には為替変動を考慮しなければなりません。配当は投資先企業業績によるものですから、優れた事業を行い、将来性のある企業の株式に投資すればよいでしょう。

しかし株式市場には大きなうねりがあります。具体的には政府の金利、金融政策や為替介入、更には外国の金利や金融政策などの影響を受け、株価は変動します。これをボラティリティと言います。

このボラティリティが大きい株はリスクが高いといいます。リスクが高い金融資産へ投資する際には、そのリスクに見合った「リスクプレミアム」を上乗せした分だけ期待収益率は高くなります。すなわち「リスクとリターン」という考え方です。

事業投資についても同様な評価を行うことが出来ます。リスクプレミアムの要因としてカントリーリスクがあります。カントリーリスクが大きい国での事業投資はリスクが大きいためその分、期待収益率は高くなります(早めに投資回収したいからです)。

このように事業や金融資産へ投資する場合、「リスクの度合い」は異なりますし、「リターンの度合い」も異なります。

意思決定する企業側のリスクに対する嗜好により意思決定される案件とそのポートフォリオは異なってきます。

しかしこのポートフォリオには最適解があるというのがポートフォリオ理論(有効フロンティア)です。

詳細は数式になるため記載しませんが、リスクとリターンのバランスを企業の嗜好に合わせて最適にする手法と考えておいて頂ければ結構です。

最後に新規事業とコーポレートファイナンスの関係についてお話します。

新規事業に対する投資は事業投資に該当します。コーポレートファイナンスから見れば資本コストを上回る期待収益率であることが必須です。

新規事業に必要な資金調達は既存企業の場合は全体の資本コスト(WACC)で調達できますので、新規事業であるから新たに資金調達するということは余程の大規模投資でない限り稀でしょう。

新規事業から得られた収益も既存のペイアウト政策で進められます。

よって新規事業の場合、その不確実性(リスク)を考慮しても期待収益率が資本コストを大きく上回るという事業であることがコーポレートファイナンスの側面からは求められるということになります。

シンプルに言えばこのようになりますが、新規事業の評価は将来性やシナジーを考慮していくため単純ではないのです。この領域は事業全体構想に関わってくる部分となり、新規事業の真骨頂なのです。

初めてファイナンス論を勉強される方は下記書籍がお薦めです。

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